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2013年ノーベル生理学・医学賞 細胞内の物質輸送の解明に( 2013-10-07 )
 2013年のノーベル生理学・医学賞は,細胞内の物質輸送を解明する研究で成果を上げたイェール大学のロスマン(James E. Rothman)博士,カリフォルニア大学バークレー校のシェックマン(Randy W. Schekman)博士,スタンフォード大学のスドフ( Thomas C. Südhof)博士に授与されることになりました。

 理科の教科書で,細胞の絵を見たことがあると思います。細胞の中には様々な小器官が入っていて,それらが互いに連携して機能を発揮しています。この複雑な仕組みをきちんと動かすには,細胞内で作られたタンパク質を,それを必要とする各小器官に正確に届けなくてはなりません。 タンパク質(イラストの赤いビーズ)を作るのはリボソーム(紫の雪だるま)です。そこからタンパク質は小胞体(左の黄緑)に入り,膜にくるまれた小胞(水玉みたいな球)となって出てきて,ゴルジ体(中央の紫)などを経由し,細胞膜(右上)から出て行きます。もちろん全部が出て行くわけではなく,経路の途中,必要とされるところでちゃんと止まり,利用されます。

 日々生成される膨大な種類のタンパク質を,細胞はいったいどうやって見分け,目的の場所に輸送しているのでしょうか? その解明に大きく貢献したのが,今回受賞する3人です。

 シェックマン博士は高温にすると物質輸送ができなくなる酵母の変異体をたくさん作り,どの遺伝子が機能しなくなるかを調べました。そうすることで物質輸送に重要な役割をする遺伝子を23個発見し,この分野の研究に先鞭を付けました。

 ロスマン博士は,動物細胞から精製した小器官やタンパク質を使って試験管の中で物質輸送を再現し,どんなタンパク質が輸送を担っているかをつきとめる新たな実験手法を確立しました。また小胞と目的の器官などの膜が融合してタンパク質を放出するには,両者のSNAREタンパク質が複合体を作る必要があり,その組み合わせがタンパク質の行き先を制御しているとする「SNARE仮説」を提唱しました。

 スドフ博士は2人が切り開いた物質輸送の仕組みが,ニューロン(神経細胞)が必要なときだけ必要な神経伝達物質を分泌するのにどのように関与しているかを明らかにしました。

 「まだ細胞内の物質輸送について何もわかっていなかった時にこの分野の研究を立ち上げ,ぐんぐんと進めていった。文句なしのパイオニア」だと,中野明彦東京大学教授は評価します。今では細胞内のタンパク質の動きを直接観察できる時代になり,物質輸送がかつて考えられていたほど単純なシナリオでは語れないこともわかってきました。輸送の異常と様々な疾患との関係についての研究も盛んに行われており,この分野は大きく発展しています。(編集部・古田彩)

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日経サイエンスでは,過去に何度か細胞内の物質輸送に関する記事を掲載しています。そのうち以下の2本を電子版で復刻し,特別価格にてダウンロード販売致します。

1995年3月号の特集「細胞内の物質輸送」に掲載された中野明彦「小胞体からゴルジ体へ」は,タンパク質が小胞体からゴルジ体へ,小胞という小さな膜カプセルによって運ばれる仕組みを丁寧に解説しています。この分野の基本的な知識を得るのに最適な1本です。
1996年5月号のJ. E. ロスマン「細胞内の輸送小胞を解明する」(翻訳:多賀谷光男)は電子顕微鏡の専門家,L.オルチとの共著。2人の意外な出会いからライバルたちの影響,誤解から生まれた発見など,研究の経緯を生き生きと語っています。
細胞内の物質輸送 / 小胞体からゴルジ体へ
日経サイエンス
1995年3月号 / 022ページから
細胞内の輸送小胞を解明する
日経サイエンス
1996年5月号 / 072ページから