深海底の“燃える氷”メタンハイドレート

E. シュース
G. ボーマン
J. グレイナート
E. ローシュ
200003

日経サイエンス 2000年3月号

13ページ
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それはスリリングな瞬間だった。巨大な金属製の顎(あご)のような海底サンプラー(試料採取装置)の口が開き,深海底から引きずりあげてきた“獲物”を,私たちの調査船「ゾンネ」の甲板上にどさっと広げた。泡だつ雪のような白い物質が,黒い泥の中でキラキラと光っていた。眼前でそれが融けるのを見ながら,私たちは,ついに“宝物”を見つけだしたと感じていた。
 海底から引き上げたのは,凍った水分子の“かご”(結晶)の中にメタン分子が入っている「メタンハイドレート」という物質だ。私たちは,まさにこのメタンハイドレートを探し求めていた。
 メタンハイドレートは,日本列島沖から米国オレゴン州沖にかけての北太平洋や,中米コスタリカ沖,米国東岸ニュージャージー州沖など,世界各地の海で大量にその存在が確認されている。その総量は,現在知られている全世界の天然ガスと原油,石炭の総埋蔵量を合わせた量の2倍以上(炭素換算で)はあると考えている。もし,将来,実用的な採掘技術が考案されたら,海底のメタンハイドレートはエネルギー不足に悩む世界を救う新たな燃料供給源になりうる。また,この“燃える氷”が融け,大気中に膨大なメタンが放出されれば,地球温暖化が大幅に加速される可能性がある。