ヴォイニッチ手稿の謎

G. ラグ
200410

日経サイエンス 2004年10月号

7ページ
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 中世に書かれ,「世界で最も不可解な書物」と呼ばれてきた謎の手稿がある。奇妙な文字でつづられており,解読の試みはことごとく失敗した。しかし最近の研究によって,巧妙な“でっち上げ”の線が強まった。
 この文書は1912年,稀こう本を扱う米国の古書商ヴォイニッチ(Wilfrid Voynich)がローマ近郊にあるイエズス会系大学の図書館で再発見したもので,「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれる。暗号で書かれていると考えられてきたが,解読の試みがことごとく失敗したため,そもそも暗号文ではなく,意味のあるメッセージは含まれていないのではないかという疑いが浮上した。
 著者による最近の研究によって,16世紀に存在した簡単な道具を使うとヴォイニッチ手稿と似た文書を作り出せることがわかった。「カルダーノ・グリル」と呼ぶ一種の暗号作成器で,1枚のカードにいくつかの穴が開いている。桝目の中に文字や音節を書き込んだ表を作り,その表の上にカルダーノ・グリルをかぶせ,カードの穴を通して見えた部分をつなげて単語を合成していく。
 ヴォイニッチ手稿の単語や文章には奇妙な規則性があるが,カルダーノ・グリルを使うと同じ特徴を再現できる。また,できあがった文章は規則性がありながら,無意味な内容となる。
 この発見はヴォイニッチ手稿が捏造であることの証明にはならないものの,英国にいたケリー(Edward Kelley)という人物が神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世から金をだまし取るためにこの文書をでっち上げたとする古くからの説を強く支持するものだ。ケリーは悪名高いウソつきにして魔術師・錬金術師で,カルダーノ・グリルのことをよく知っていた。皇帝は手稿を現在の貨幣価値にして5万ドル相当で買い上げたと伝えられている。