なぜ熱かった?
小惑星の謎

A. E. ルービン
200508

日経サイエンス 2005年8月号

10ページ
( 2.2MB )
コンテンツ価格: 700

大きな天体は小さな天体より熱を蓄えやすい。地球の内部では,カリウム40とトリウム232,ウラン235,ウラン238という寿命の長い4つの放射性核種(同位体)がそれぞれ安定な核種へと放射壊変するのにともなって熱を発生し,数十億年にわたって地球を暖め続けている。この熱は地表から放射されて失われていくが,直径1万2740kmの地球の場合,冷却はゆっくりと進む。そのため地球では今でも火山の噴火が起きるし,外核には金属が液体の状態で存在している。
 だが小さな天体の場合はどうだろうか。天体が小さくなればなるほど,体積に対する表面積の比が大きくなる。そのため小さな天体は速く熱を放出して冷え切ってしまう。例えば月は地球の1/4の大きさしかないので,表面から熱がはるかに速く逃げる。その結果,月ではすでに30億年前に,玄武岩(最も一般的な火山岩)を噴出する火山活動がすっかり終わってしまっている。
 主に火星と木星の間の軌道で公転している小惑星の場合,熱は月よりももっと速く失われる。3番目に大きな小惑星であるベスタでも直径は516kmしかなく,体積に対する表面積の比は地球の25倍にもなるので,かなり速く冷却してしまうはずだ。しかし,そのベスタには過去に火山活動を起こした証拠が残っている。これは速く冷えやすいという小惑星の性質とは明らかに矛盾する。ベスタ表面を分光観測した結果,火山性の玄武岩で覆われているとみられ,ベスタ内部は過去には溶けていたと考えられる。
 では,ベスタを溶かした熱の源は何だろうか。最初に挙げたカリウムやウランなどの長寿命放射性核種(長い時間をかけて放射壊変するような核種)ではないはずだ。それら核種の当初の存在量と天体からの熱の放出率を考慮して計算すると,長寿命放射性核種の壊変ではベスタなどの小惑星を溶かすには足りない。他の加熱メカニズムがあったはずだ。それは一体何なのだろう。数十年にわたって,この疑問は惑星研究者を悩ませてきた。
 近年,近地球軌道小惑星ランデブー(Near Earth Asteroid Randezvous ; NEAR)計画によって,熱源のひとつの可能性が示された。1997年,NEAR探査機が小惑星マチルダの近くを飛行した際にマチルダから受ける引力を測定したところ,マチルダの密度が予想外に低いことがわかった。これによりマチルダは瓦礫が積み上がったような非常に空隙の多い多孔質の天体だと考えられた。この発見から,小惑星同士の衝突で大量の熱が発生したのではないかという可能性が指摘された(ただし,マチルダはおそらく過去に溶けたことはないと考えられる)。
 この仮説はまだ議論の余地はあるが,小惑星のかけらである隕石の最新の研究から,それを支持するような証拠も見つかっている。この衝突加熱説が証明されれば,長く解決されなかった天文学の謎のひとつが解明され,太陽系初期の進化の歴史が新たに明らかになるだろう。