特集:地球の未来
環境経済学の挑戦

H. E. デイリー
200512

日経サイエンス 2005年12月号

9ページ
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 経済成長は,現代世界の経済にまつわるあらゆる問題を解決する万能薬とみなされている。貧困問題を解決するには,経済を成長させさえすれば(つまり,モノとサービスの生産を増やし,消費支出を刺激すれば),あとは富が広く浸透するのを待つだけだ。富裕層から貧困層に富を再分配しようとしてはならない。成長を鈍化させるからだ。失業解消には,貸出金利を引き下げて投資を刺激し,モノとサービスへの需要を拡大させればいい。そうすれば,雇用拡大にも経済成長にもつながる。
 人口過剰問題はどうか。出生率を低下させるには,20世紀の先進工業国の先例にならって経済成長を促進し,その結果起きる人口構造の変化を待てばいい。環境悪化には「環境クズネッツ曲線」がある。これは国内総生産(GDP)の継続的成長に伴い環境汚染が増大するが,やがて最大値に達したのち減少するとされる経験則だ。
 このような経済成長を前提とする発想は,世界経済が限界のない空間に存在しているのならうまく行くかもしれないが,現実はそうではない。経済はむしろ,有限の生物圏のサブシステムであり,生物圏に支えられて存在している。
 経済の拡大が度を越して周囲の生態系を侵害すると,経済成長によって付加される人工資本(道路,工場,電気製品など)よりも価値のある自然資本(魚,鉱物,化石燃料など)を犠牲にするようになる。そうすると,私が呼ぶところの「不経済成長」となって,グッズよりも急速にバッズを生み出し,豊かになるどころか,ますます貧しくなる。最適規模を超えると,経済成長は短期的には無意味なものになり,長期的には維持が不可能になる。米国はすでに不経済成長段階に入っていることを示す証拠もいくつか出てきている。