脳にチップを初めて埋めた男
ホセ・デルガードの早すぎた挑戦

J. ホーガン
200602

日経サイエンス 2006年2月号

10ページ
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コンテンツ価格: 700

1970年代初め,エール大学の生理学教室の教授,デルガード(Jose Manuel Rodriguez Delgado)は世界で最も話題となり,かつ論争を巻き起こす神経科学者の1人だった。1970年,New York Times Magazine誌は,巻頭特集で「自分自身の精神を操作する“精神市民社会”の先駆者」としてデルガードを称賛した。しかしその記事は,エール大学の同僚が彼の研究に「恐るべき可能性」を感じているとも付け加えていた。
 
デルガードは脳に埋め込むチップを開発した。信号を受信し,ニューロンへ伝達することで精神を操作する電子装置だ。『電子頭脳人間』から『マトリックス』に至るSF映画の中では小道具にすぎなかった脳チップは,今やてんかん,パーキンソン病,麻痺,失明といった病気の治療に試されている。しかしデルガードは数十年も前に,いくつかの点ではるかに画期的な実験を行っていた。「スティモシーバー」と呼ぶ無線装置付きの電極をネコやサル,チンパンジー,テナガザル,ウシ,ヒトにまで埋め込み,ボタン1つで心身をコントロールできることを示した。
 
だが,デルガードがスペインに移った1974年以降,米国での名声は消え,市民だけでなく他の科学者からも忘れ去られ,論文の引用リストからも消えた。彼は審査付き論文誌に500本以上の研究論文を書き,1969年には本も著したが,これらが現在の研究者に引用されることはめったにない。実際,初期の研究をよく知る者は,彼は死んだものと思い込んでいる。
 
しかしデルガードは健在で,最近妻のキャロライン(Caroline)とともにスペインからカリフォルニア州サンディエゴへ移り住んだ。脳の特定部位を刺激することでさまざまな病気を治療する試みについて,独自の見解を持ち続けている。