実験動物に頼らない毒性試験

A. M. ゴールドバーグ
T. ハルトゥング
200605

日経サイエンス 2006年5月号

9ページ
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化学物質の安全性を調べるため,米欧で数億匹に達する動物の命が投じられる。これは現時点で使用中の化学物質に限った話で,毎年新たに数千の化学物質がこのリストに加わる。動物実験の代替法に関する研究は動物保護活動家からは動物実験に対する言い訳だと中傷され,科学者からは感傷的なパフォーマンスにすぎないと馬鹿にされてきた。しかし,今,動物福祉と厳密な科学的評価が両立しうる代替技術への足がかりが得られつつある。

代替法の1つは細菌毒素がヒト白血球を刺激し,脳に働きかけて体温を上昇させる作用などをもつサイトカイン(細胞間の情報伝達を担うタンパク質の総称)の放出を誘発する性質を利用する。血液サンプルのサイトカインを調べるだけで各種細菌毒素の有無が判定できる。

皮膚や肺,眼,筋肉,粘膜などの組織から採取したヒトの細胞を培養し,その細胞を使って立体的な組織を再構築することも可能になった。眼だけでなく,皮膚層や肺,胃や腸などの消化管,口や膣の上層部分なども出来上がっている。

最近,米国では同一容器内で複数種類の組織を培養するシステムが開発された。これを使えば,ある臓器で化学物質が代謝されて他の物質に変化し,その物質が別の臓器に影響を及ぼすといった複雑な体内プロセスを再現できるようになる。このようなシステムが発展すれば,化学物質が吸収され,体内を巡って代謝されて排泄されるまでを追う研究を実験動物なしでできるようになる可能性がある。

代替法を用いれば数百万ドル,おそらくは数十億ドルに達する費用削減と,数十年は言い過ぎとしても,かなりの試験期間が短縮できる。同時に動物実験よりも厳密で適切なデータが得られる。