ジョージ・ワシントンを復元する

J. H. シュワルツ
200605

日経サイエンス 2006年5月号

9ページ
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ワシントン(George Washington)について私が小学生時代からずっと覚えていることと言えば,幼い頃に桜の木を切ってしまい,それを正直に父親に打ち明けたこと,大人になってからは木製の入れ歯をしていたことくらいだ。最近,私はワシントンについてずいぶん多くのことを知った。実は,桜の木など切っていないし,木製の入れ歯もしていなかった。だが,これらはこれから知る事実に比べればほんのささいな驚きにすぎない。

私は肖像画や彫像として知られているよりも若い頃のワシントンの姿を復元するというプロジェクトに思いがけなくも加わることになり,本格的な復元作業を始めた。私たちは1ドル紙幣に描かれている肖像画を見慣れていて,唇が薄く近寄りがたい雰囲気の長老政治家を思い浮かべるが,復元作業によってそれとはまるで異なった姿のワシントンが浮かび上がった。

骨がない? 骨なしで復元するなんて,いったいどうすればよいのか。想像もつかない。しかし,この挑戦は断ることができないほど興味をそそるものだった。

研究に使えそうな材料として等身大の白大理石の彫像,胸像,ライフマスク(生前に取った面型)があった。すべてフランスの宮廷彫刻家,ウードン(Jean-Antoine Houdon)の作品だ。彼はワシントンが53歳だった1785年にマウントバーノンを訪れ,これらの制作を始めた。スチュアート(Gilbert Stuart),チャールズ・ピール(Charles Wilson Peale),その息子のレンブラント・ピール(Rembrandt Peale),トランブル(John Trumbull)らによって描かれたワシントンの中高年期の肖像画もいくつか残っており,手がかりになった。中年期以降に使用していた数個の入れ歯,いくつかの洋服も貴重な資料となった。

これらの手がかりを組み合わせ,巧みに処理する何らかの方法を考案しなければならなかった。例えばウードンが作ったライフマスク,胸像,彫像をスキャンし,3次元画像にしてから細部の正確さを比較する手もある。入れ歯も3次元画像にすれば,それを頭部の3次元画像にはめ込んで,顎の曲線を決定できるだろう。ワシントンが53歳までに顎から失った骨の量を推定し,それを元に戻すことで若い頃の頭部を復元できるだろう。