サメの第六感 獲物をとらえる電気感覚

R. D. フィールズ
200711

日経サイエンス 2007年11月号

9ページ
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サメはその驚くべき嗅覚で知られている。獲物の血のにおいをかぎつけると,どこからともなくサメが集まってくる。だが,もう1つサメの鼻面には驚くべきセンサーが備わっている。視覚でも,聴覚でも,触覚でもない。それは周囲の電場を感じとる感覚,いわば電気感覚とでもいうものだ。
 
サメの鼻先に孔が点々とあいていて,それらの孔の奥にはゼリー状物質が詰まったチューブがあることが発見されたのは17世紀後半。この構造は発見者の名にちなんで「ロレンチー二器官」と呼ばれるが,どんな役割を果たすのか長い間わからなかった。19世紀,顕微鏡で調べられ,それが感覚器官であることは見当がついたが,何を感知するのかは依然謎のまま。電気を感知することがわかったのは,さらに100年後の1960年代になってからだった。
 
実は魚はいわば微弱な電池のような存在でもある。魚の細胞中の塩分濃度と海水のそれとが異なることで,魚と海水の間に電位差が生じるのだ。ただ,それによって周囲に作られる電場は非常に微弱だ。ところが実験の結果,海中の1cm離れた2点間に100万分の1ボルトという電位差が存在するだけでも,サメはそれを感知できることが明らかになった。
 
サメはこの超高感度の電気センサーを獲物の位置特定に使っているらしい。魚が発生する電場を模擬できる電極を海中に下ろし,電極から少し離れたところに魚のすり身を置いてみた。サメはすり身に引き寄せられるようにやってきたが,最後の瞬間,サメが噛みついたのはすり身ではなく電極の方だった。サメは血のにおいを手がかりに遠方の獲物を探知し,接近してからは電気感覚で相手を“見て”いる可能性が高い。
 
この能力を逆手にとって,サメを人や魚網から遠ざけることができるかもしれない。それは人を助けるためだけではない。サメの命を救うのにも役立つのだ。毎晩,世界の海では5万匹ものサメが網に誤って捕まっている。サメが電気感覚を狩り以外にどう利用しているのかも興味深い。