グラフェン 鉛筆から生まれたナノ材料

A. K. ガイム
P. キム
200807

日経サイエンス 2008年7月号

10ページ
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 鉛筆で線を引っぱるたびに,物理学やナノテクノロジー分野でいま最もホットな新素材「グラフェン」の小片が生み出される。このグラフェンは鉛筆の芯の材料であるグラファイト(黒鉛)から生まれる。グラファイトは炭素だけからなる物質の1つで,平らに並んだ炭素原子の層がいくつも積み重なってできており,何世紀も前からグラファイトのこの層状構造は知られ,層に分けようと試みられてきた。この1枚の層はグラフェンと名付けられ,六角形の網目状に結合した炭素原子のみからなり,厚みは炭素原子1個分しかない。
 グラフェンの単離に成功したのはつい最近で,2004年に著者のガイムらはグラファイトを力ずくで引き剥がした破片からグラフェンを作り出した。セロハンテープにグラファイトの薄片を貼り付け,テープの粘着面で薄片を挟むように折り,再びテープを引き剥がす。これを繰り返すことによって薄片を剥がし,どんどん薄くしていくことでグラフェンと同定される資料が見つかた。その結晶構造はほとんど欠陥がないうえ,常温でも化学的に安定していることがわかった。
 実験室でグラフェンが発見されたことによって,世界中で活発な研究が始まることになった。グラフェンはあらゆる物質の中でもっとも薄いだけでなく,非常に強くて硬い。常温でほかのどんな物質よりも電子の移動速度が高い。目下,世界中の研究所ではグラフェンの性質を調査し,超高強度複合材料やスマートディスプレー,超高速トランジスタ,量子ドット演算素子などの製品に応用できるかどうかを綿密に調べている。一方,原子スケールで奇妙な性質を示すことから,相対論的量子物理学でしか説明できない物理現象をグラフェンを使って調べられる可能性がでてきた。これまで天体物理学か素粒子物理学の独壇場にあった研究が,グラフェンの発見によって,相対論的量子力学に基づく予測を実験室の卓上装置で検証できるかもしれない。