偽造を見破るデジタル画像鑑定

H. ファーリッド(ダートマス大学)
200809

日経サイエンス 2008年9月号

6ページ
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 われわれの歴史は偽造写真に満ちている。スターリンも毛沢東も,あるいはヒトラーやムッソリーニ,カストロ,ブレジネフも,写真を捏造した前科があるのだ。英雄然としたポーズをでっちあげた写真から,敵やビール瓶を消去する程度のものまでさまざまだ。スターリン時代の捏造は,暗室の中で長時間を要する面倒な作業だったが,いまはコンピューターがあれば真偽を見分けられないほどの画像を誰もが作り出せるようになった。
 最近では,“ニセ画像”の発覚がたびたびニュースをにぎわしている。ただし,肉眼で画像を調べるだけでは偽造を証明できない事例が多く,コンピューターによる解析技法,すなわち「デジタル画像鑑定」を利用する必要がある。
 例えば,2人の人物を合成した疑いのある画像では,光源方向の不一致を検出する手法を使い,インターネット上の魚釣りコンテストに提出された魚の画像には,サイズ調整によって生じる不自然な痕跡を探した。ソフトウエアの著作権を巡る係争で証拠として提示された画面の画像については,画像の標準的なフォーマットであるJPEG圧縮における不整合から改ざんが発覚した。
 画像の種類や偽造の手法が多岐にわたるため,画像鑑定では多種多様なツールを活用している。ツール作成にはまず,デジタル画像中の統計学的あるいは幾何学的特性が,偽造の種別によってどのように変化するかを把握する。そして,改ざんによって現れる不規則性を見つけ出す数学的アルゴリズムを開発するのだ。
 デジタル画像鑑定は比較的新しい分野だが,学術出版社や報道機関,法廷などがデジタルメディアの真贋判定に科学鑑定を取り入れ始めている。5〜10年後には,画像の科学鑑定は法医学鑑定並みに当たり前になるだろう。分別ある政策と法の下で,この新技術がデジタル時代の難題を対処する礎になるだろう。