特集:ネットが蝕むプライバシー
ICタグ
ICタグとプライバシー

K. アルブレヒト(消費者団体カスピアン)
200812

日経サイエンス 2008年12月号

8ページ
( 2.4MB )
コンテンツ価格: 611

 遠くからでも情報を読み取れる運転免許証が米国で交付され始めた。この免許証には無線ICタグ(RFID)が内蔵され,財布やポケットに入っていても約10m離れたところからICタグ情報を正確に読み取ることができる。タグには固有のID(識別)番号を記録したマイクロチップが埋め込まれている。この免許証を携帯して国境の検問所に近づくと,読み取り装置からの無線信号を受信してチップが起動し,ID番号を送り返す。免許証の持ち主が国境監視員のもとにたどり着くころにはもうID番号は国土安全保障省のデータベースに送信済みで,監視員の眺める画面には旅行者の写真と詳細情報が表示されている。
 こうしたICタグ付き運転免許証を利用するかどうかは,免許証を発行する州に暮らす個人の意思に任されているが,プライバシーやセキュリティーの専門家は登録者がそのリスクを認識していないのではないかと懸念している。というのも,簡単に手に入る読み取り装置さえ持っていれば,たちの悪いマーケティング担当者でも政府職員でも,ストーカーでも泥棒でも,誰もが免許証データにアクセスでき,当人に知られずに,もちろん同意を得ないまま,離れた場所から登録者を追跡できるからだ。しかも,免許証を携帯している人がクレジットカードで支払いをするなどして,免許証のICタグ番号が本人の身元といったん関連づけられてしまうと,その後はこのICタグ自体が本人の代わりとなってしまう。
 消費者が着用したり携帯する可能性のあるICタグ付きアイテムはますますその数を増やしており,運転免許証はその最新例にすぎない。消耗品から公式な身分証明書までチップを埋め込もうとする動きは,プライバシーとセキュリティーにかかわる新たな問題を生み出してきた。それはICタグが強力な追跡技術であるためだ。ICタグ自体にはセキュリティー機能がほとんど組み込まれていないうえ,現行法はセキュリティーに関して不十分で,ますます“タグ付き”にされつつある暮らしの中で,ひそかに追跡され調べられてしまうリスクから市民を守ってはくれない。