特集:進化する進化論 ダーウィン医学
人間の由来と病気

高畑尚之(総合研究大学院大学)
200904

日経サイエンス 2009年4月号

8ページ
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 私たちの身体はいうまでもなく進化の産物だ。進化は“完成品”を目指して進むのではない。そうではなく,環境の変化に対してむしろ場当たり的に対処してきたといえるだろう。例えば,海水のカルシウムイオンが急増すると細胞からこのイオンを汲み出す機構を備えたり,既製のさまざまな部品を流用して複雑な免疫系を組み上げたり。哺乳類の系統でいったんは失った色覚を霊長類では再び取り戻したりもしている。こうした進化が奇跡的にうまくいったものだけが生き残り,現在の私たちに至っているのだ。しかし,場当たり的な進化には代償もつきまとう。現在の私たちを苦しめる病気の多くには,進化のプロセスにその遠因を求めることができる。とくに,その進化をなしえてきた環境と現代社会がかけ離れている点に,トラブルの要因があることも多い。この意味では,病気の起源を進化論的に探ることは,現代文明を生物学的な視点で問い直すことに他ならない。