ナノチューブ1本でラジオ!

E. レジス(サイエンスライター)
200906

日経サイエンス 2009年6月号

6ページ
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ナノテクノロジーは近年の応用科学の歴史の中で,“偉大なる次世代技術”と過剰宣伝されてきたのは間違いないだろう。熱烈なナノテク支持者に言わせると,分子どうしを機械的に結合させ,どんなに複雑な物体でも作り出せる分子加工システムだという。
 だが,現実は少々異なる。いまや「ナノ」という名称は,基本的に小さければどんなものにも付けられるようになり,「ナノ粒子」なる語がエンジンオイルや日焼け止めクリーム,口紅やスキー板のワックスに至るまで多様な日用品に氾濫している。そんな中,本当に機能する初のナノデバイス──私たちのマクロな日常生活に目に見える影響を与えるもの──がラジオとして登場するとは誰が予想しただろうか?
2007年にカリフォルニア大学バークレー校の物理学者ツェットル(Alex Zettl)が発明したナノチューブラジオは驚くべき性能を示す。1本のカーボンナノチューブが放送信号にチューニングし,増幅して音声信号に変換,人間の耳にはっきりと聞こえるように外部スピーカーに出力する。信じられない人は下記のウェブサイトで,ナノチューブが奏でる曲の数々を聴いてみるといいだろう。
製作者たちによると,ナノチューブラジオは革新的な機器の基盤技術になる可能性がある。補聴器や携帯電話,iPodなどを耳の中にすっぽり収まるくらい超小型にできるだろう。ツェットルは「ナノラジオは生きている細胞の中にも簡単に入る大きさで,脳や筋肉を動作させるインターフェースや血管内を移動する無線制御装置などが考えられる」という。
これぞ正真正銘のナノマシンの登場だ。