蜂群崩壊症候群
消えたミツバチの謎

D. コックス=フォスター
D. ファンエンゲルスドープ (ともにペンシルベニア州立大学)
200907

日経サイエンス 2009年7月号

10ページ
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 2007年から2008年にかけて米国では授粉用に飼育されているミツバチの3割以上が姿を消した。コロニー崩壊は徐々に起きていたが,これほど劇的な死滅は2007年冬が初めて。世界の農産物の1/3は養蜂家が育てたミツバチに授粉を頼っており,リンゴやブルーベリー,アーモンドをはじめ100種類近くの農作物が危機に瀕している。米国では「蜂群崩壊症候群(CCD)」と名付けられ,調査が開始された。
 ミツバチ失踪の背景には,ダニやウイルス感染のほか,ダニ駆除剤や農薬などの化学物質,ストレスといったさまざまな要因が絡み合っている。米国では,大規模な単一栽培農場で集中的な授粉が行われるため,この期間に育つミツバチの幼虫は1種類の花粉しか与えられず栄養不足で免疫力が低下している可能性がある。また近年盛んに用いられるようになったネオニコチノイド系の殺虫剤がハチの帰巣本能を低下させるという指摘もある。
 ミツバチの感染症としては,ヘギイタダニやノゼマ病が知られているが,今回の調査で注目されたのは「イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)」だ。比較的最近になって海外から入ってきた感染症で,CCDの被害が出たコロニーのほぼすべてでこのウイルスが見つかった。しかし,感染コロニーのすべてがCCDの症状を示しているわけではない。複合的な原因で弱体化したコロニーが,IAPVという新しいウイルスの感染によって壊滅的な状況に追い込まれた可能性が高い。
 防御策としては,RNA干渉を用いてウイルス複製を阻止する方法なども考えられているが,実用化には時間がかかりそうだ。単一栽培の見直しや巣板の消毒など,ミツバチを取り巻く環境の改善が急がれる。