ブラックホールの容貌(かたち)を撮る

A. E. ブロデリック(トロント大学)
A. ローブ(ハーバード大学)
201003

日経サイエンス 2010年3月号

10ページ
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 一般相対性理論が予言するブラックホールは,重力が強すぎて,光すら脱出できない天体だ。これまでにブラックホール近くのガスやその他もろもろの物質,ブラックホール近傍から噴き出していると想定されている途方もないエネルギーは撮像されているものの,依然としてブラックホールそのものは“見えないもの” として脇に置かれたままだ。その見えないブラックホールを直接“観”ようという計画が進んでいる。
 観測ターゲットの1つは天の川銀河の中心にあると考えられているブラックホール「いて座Aスター」だ。太陽の450万倍もの質量を持ち,2万4000光年も彼方にあるこの天体の“見かけの”大きさは,差し渡し55マイクロ秒角ほどと見積もられている。ロサンゼルスに置かれたケシの実をニューヨークから見るようなものだ。そんなことが本当に可能なのだろうか。
 望遠鏡の解像度を高めるには望遠鏡の口径を大きくすれば良いが,実際に作れる大きさには限界がある。しかし,望遠鏡を複数組み合わせて解像度を高める方法もある。干渉計の技術を用いて,複数の望遠鏡が検出した信号を結びつけるというものだ。望遠鏡間の距離が離れているほど解像度は高くなり,高解像度の精密な観測が可能になる。世界各地にある望遠鏡を連携させれば,地球サイズの望遠鏡と同程度の解像度まで高められるのだ。
 この技術をブラックホール観測に適した波長を観測できる望遠鏡として応用すれば(もちろん,他にも越えなければならない技術的壁はあるが),ブラックホールを直接捉えることが可能になる。高温で輝くガスを背景にブラックホールの黒いシルエットを撮像する日はすぐそこまで迫っている。

再録:別冊日経サイエンス196「宇宙の誕生と終焉 最新理論でたどる宇宙」