豚はインフルエンザ工場

H. ブランスウェル(カナディアン・プレス)
201102

日経サイエンス 2011年2月号

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 豚はインフルエンザウイルス遺伝子のるつぼだ。2009年の新型インフルエンザ・パンデミックをもたらしたウイルスがどこから来たのかは明らかでないが,豚,鳥,人間のインフルエンザウイルスの遺伝子が混ぜ合わさって生じたのは間違いない。豚はこれらのインフルエンザウイルスのいずれにも感染するため,体内でウイルス遺伝子が混合し,常に新たなウイルスが生じている。たまたま人間の間で感染しやすいウイルスができると,パンデミックにつながる。今回は幸い,ほとんどの人の症状は軽かったが,次のパンデミックでも同じ幸運が起きるとは限らない。
 パンデミックの発生を防ぐ手立てはないが,被害を最小限に食い止めることは可能だ。新たなウイルスが広がる兆しをいち早く発見し,早期にワクチンを作って集団接種を行うことだ。そのためには,新たなパンデミック・ウイルスをもたらしそうな動物の間で流行しているウイルスを常に監視し,動向を把握する必要がある。
 ここ数年続いた鳥インフルエンザへの懸念のため,鳥ウイルスのサーベイランス体制はかなり整ったが,豚ウイルスについてはまったく未整備だ。豚は世界で 9億4100万頭も飼育されているが,生産国の大半ではウイルス検査が行っておらず,行っている国でも情報は養豚業者とワクチンメーカーのものだ。養豚業者は豚肉の値段の下落を心配し,そうした情報を公衆衛生当局に報告することには消極的だ。
 世界第2位の豚の生産国である米国では,先ごろ,疾病対策センター(CDC)が豚のウイルスの遺伝子情報を報告するシステムを稼働した。養豚業者の協力を得るため,情報は基本的に匿名で提供される。ウイルスが採取された養豚場の場所は州名のみで,それ以上詳しい場所も名前もわからない。システムは稼働したが,新たなパンデミックを起こす恐れのあるウイルスを迅速に見つけ,人間社会への侵入をとらえて対策を立てることができるかどうか,公衆衛生の研究者たちは懸念している。
 2011年には公衆衛生の担当者と動物衛生の担当者が国際会議を開き,情報共有について話し合う予定だ。豚のサーベイランス体制は動き出したばかりだが,最近,北米の豚ウイルス変異は急激に加速しており,対策は待ったなしの状況だ。