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第47回 イモリで探る体の組織再生のしくみ:千葉親文

西山彰彦(日本経済新聞編集委員)
201503

日経サイエンス 2015年3月号

4ページ
( 2.5MB )
コンテンツ価格: 500

イモリの目の傷ついた網膜は,おとなになっても再生する
その謎を解き明かすことができれば
人間の再生医療につながるかもしれない

 「かわいいやつ」。めがねの奥から優しい瞳が,手にのせたイモリを見つめる。千葉親文は「このイモリにヒトの再生医療につながるヒントが隠されている」という。実験に使うイモリを絶滅の危機から救うため,休耕田を利用した人工繁殖にも乗り出した。分子生物学から生態学まで生物学のあらゆる分野を総動員して,イモリの不思議を解き明かそうとしている。(文中敬称略)
イモリは水の中で泳いでいる幼生の時期でも,変態しておとなになっても手足や目が再生する。胎児や幼生の時に再生する能力を持つ動物はほかにもいるが,イモリは年をとっても再生する。これがイモリの特徴だ。
 例えばヒトの赤ちゃんはおなかの中にいるときは,指や心臓などが傷ついてもきれいに修復できる。多能性を持った細胞が体の中にあって,損傷した細胞を再生してくれるからだ。だが,多くの脊椎動物は,年をとるにつれて多能性を持った細胞が無くなり,再生能力を失ってしまう。イモリもおとなになると人間と同じように多能性細胞が減少する。にもかかわらず,再生できる。多くの研究者は「イモリの体内には実は多能性細胞が生き残っているのではないか」と考えていた。
 千葉らは2014年,この予想を覆す成果を上げ,Scientific Reports 誌に報告した。おとなのイモリは傷ついた目の網膜を,もともと体内にあった多能性細胞からではなく,網膜の細胞の一部をリプログラムして作った多能性細胞から再生させることがわかったのだ。ただしこの多能性細胞はどんな組織にでもなり得るiPS細胞のような「万能細胞」ではなく,網膜全体を作る特殊な多能性細胞だ。