準結晶はどこまで解明されたか

蔡 安邦
199607

日経サイエンス 1996年7月号

12ページ
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コンテンツ価格: 306

2011年のノーベル化学賞は「準結晶の発見」でイスラエル工科大学のD. シェヒトマン(Daniel Shechtman, 70)に贈られることになりました。本誌の過去の記事で、蔡安邦先生が執筆された記事がありますので、今回は特別価格でご提供します。

なお,この記事はダウンロード販売の対象外の記事ですが,ノーベル賞記念として,特別に販売を開始します。誌面をスキャナーで読み込んで作っていますので,画面がやや粗めで,文字検索もできませんが,何卒ご了承ください。

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5回対称性をもつ準結晶の発見は,今世紀後半の固体物理学で最も衝撃的な事件であった。現代の物質観で“あってはならないもの”だったからである。150年以上にわたって培われてきた結晶物質の基本テーゼは「周期性」であった。つまり,単位となる格子が空間をすき間なく埋め,しかも全体を並行移動できる様式でしか,結晶物質は存在しえないというものである。ここから,2,3,4,6回対称性は存在しても,5回対称はありえないことになる。

 理論自体がいくら正しくても,自然は人知を超える秘密を隠していたのだった。19世紀半ばから営々と築き上げてきた物質観は,根底からくつがえされた。そのキーワードは「準周期性」だ。これは中途半端な周期という意味ではなく,「ある種の高い秩序性(たとえばフラクタル構造)をもっているのに,既存の周期性という概念に収まりきれないもの」という意味である。
 大楼閣の崩壊を見逃すほど物理学者はおめでたくない。そこで,準結晶を“異端児”として既存の枠組みに組み込もうとした。不安定で一時的な状態と信じたかった。しかし,この希望的観測もはかなくついえ去った。著者が熱力学的に安定な「単結晶のような準結晶」を作ってしまったからである。


 準結晶を含む“秩序構造をもつ物質”の統一理論は,地動説や相対論に匹敵する概念の革命を起こすかもしれない。これまでに見つかった準結晶物質の実に9割近くを発見した著者が,最新の準結晶研究について語る。