ブラックホールと情報のパラドックス

L. サスカインド(スタンフォード大学)
199707

日経サイエンス 1997年7月号

10ページ
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コンテンツ価格: 300

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2012/03/23

 ブラックホールに吸い込まれる夢を見たことはあるだろうか。ブラックホールに近づくと,人間は紙のように薄くなり,心臓の鼓動はゆっくりになって最後には止まってしまう。灼熱(しゃくねつ)地獄のような超高温にもさらされるようになる。

 その後はどうなるだろう。ホーキングはブラックホールのすぐ外側から,電磁波や粒子が放出され,吸い込んだ物質の総量に相当する質量が外に戻ってくることを示した。いわゆるブラックホールの蒸発だ。

 では,物質の形状や種類,性質など物質が担っていた情報は戻るのだろうか。たとえば,戻ってきた質量と情報をうまく再構成すれば,ブラックホールに吸い込まれた人間をよみがえらせることができるだろうか。

 ホーキングはブラックホールに入った情報は絶対,外に出られないと主張する。しかし,もしそうなら現代の物理学の支柱である量子力学の枠組みは根本からゆらぐことになる。いったいどうすればよいのか。これが「情報のパラドックス」問題だ。

 著者は弦理論ならパラドックスが解決できると説く。ブラックホールに近づくと,すべての物質は「弦」という素粒子よりさらに小さい「ゴムひも」のような存在に分解される。そして,そのすべてがブラックホールに落ちずに,外界との境界面に張り付いてゆき,ブラックホールの蒸発に伴って外に投げ返される。これで情報も戻ってくるというのだ。(編集部)