ミレニアム特集:2050年大予測
科学はどこまで進むのか
宇宙誕生の謎は解けるか

M. リース
200001

日経サイエンス 2000年1月号

9ページ
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天文学は大きく進歩したが,宇宙の大部分の質量を占める暗黒物質は謎のままで,宇宙の平均密度は理論(インフレーション理論)が予想する値よりはるかに低い。宇宙誕生直後の様子もまったくわかっていない。
 おそらく私たちは,惑星の軌道運動を精密に観測した17世紀の天文学者,ケプラーやガリレオから教訓を学ぶ必要があるだろう。彼らは,円は楕円より美しく,より単純な形をしているので,惑星軌道の形も必然的に円だと思っていた。ところが実際に観測してみると,惑星軌道が円ではなく楕円だったので,ひどく驚き,がっかりした。
 その後,ニュートンは,宇宙でも地上でもあまねく成立する単純な法則「万有引力」によって,当時知られていたすべての惑星の軌道をうまく説明することに成功した。もしガリレオが生きていたら,楕円の惑星軌道に,外見の形よりも,さらに深い美と単純さが潜んでいたことを知って喜び,納得したことだろう。
 宇宙の平均密度などに関する現在の議論も,実はこれと同じようなことだ。観測から求められた平均密度が理論が予想する値よりもはるかに小さく,それを埋め合わせるために宇宙定数という不可解な存在を導入する状況が,美しくも単純でもないと考えられるなら,それは私たちの宇宙に対する認識が不十分であることのあかしかもしれない。
 万有引力の法則が背景にあるケプラーの楕円軌道の1つを,地球が公転しているように,私たちの宇宙は,未だ発見されていない宇宙の基本理論によって規定される,実在可能な宇宙の1つなのだろう。