ミレニアム特集:2050年大予測
科学はどこまで進むのか
遺伝子解読で生命はどこまでわかるか

F. S.コリンズ
K. G.ジェガリアン
200001

日経サイエンス 2000年1月号

7ページ
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歴史家がこのミレニアムの節目を振り返るとすれば,科学的に大きなブレイクスルーは遺伝子情報で書かれた人間を形作る設計図がついに細部まで明らかになったことだった,と書き記すだろう。すべての遺伝子の染色体上での位置を明らかにし,文字通り生命の糸の1つ1つを読みとることを目指したヒトゲノム計画は,生物学のあらゆる分野に影響を与えた。人を含む多種多様な生物のDNA配列が完全にわかれば,生物はどう進化したのか,人工生命は可能か,多くの病気をどう治療したらいいか,などの答えが得られるだろう。
 ヒトゲノム計画は,生物学ではかつてないほど膨大なデータをもたらしている。ヒトゲノムを構成する塩基というDNAの基本単位を書き連ねると電話帳200冊分になるが,そのDNAが何をしているかという説明はまだついていない。ヒトの全DNAの90%の概要は,2000年の春までにはつかめられるはずで,全配列の解明は2003年になると推定されている。
 しかしそれは単なる骨格であって,意味あるデータにするには詳しい説明を加えていかなければならない。データから利益を得るのは,遺伝子の情報に書かれているタンパク質の機能が理解されてからになるだろう。
 ヒトゲノム計画は,人のタンパク質を明らかにするだけでなく,タンパク質を作っている遺伝子がどう発現しているか,他の生物にある類似遺伝子とどこがどう違うのか,同じ遺伝子でも個人差があるのか, DNA配列がどうやって性質として外に現れるのか,などの解明を目的としている。
 DNAの塩基に詰め込まれたいくつもの情報は,そのDNAの解明の手がかりとなるだろう。これらのデータは,少なくとも21世紀の生物学を大いに進展させるに違いない。文字どおり,「知れば知るほど,将来を見通すことができ,仮説を立て,理解できるようになる」だろう。