巣を乗っ取る女王アリ

H. トポフ
200003

日経サイエンス 2000年3月号

8ページ
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普通のアリと違い,サムライアリの働きアリは食物を集めたり幼虫や女王を養ったりせず,自分の巣を綺麗に掃除することもしない。そこでサムライアリは生きるために,自分たちと系統的に種が近いヤマアリ(Formica)属の働きアリを手に入れて雑役をさせる。サムライアリの働きアリは1500匹ほどで定期的に奴隷狩りに出かけ,ヤマアリの蛹(さなぎ)を略奪する。
 私はこれまで,1つの強い目的をもってサムライアリを研究してきた。自分たちで自らを養えないサムライアリは“必然的な社会寄生”をする。これが,どのような適応のもとに成り立つかという問題だ。そこでまず,サムライアリの特異的な行動に焦点を当てた。サムライアリの女王はたった1匹でヤマアリの巣を侵略するのだ。
 若い女王は初めて生んだ子供を奴隷の助けなしに育てることができない。そこで彼女は全く不可能とも思える作戦に挑む。彼女はヤマアリの巣に侵入し,そこの女王を殺してヤマアリの働きアリたちに受け入れられようとする。しかも1匹の仲間の手も借りずに,それを完遂しなければならない。
 サムライアリの若い女王はヤマアリの巣に侵入すると,ヤマアリの働きアリたちを押し飛ばして,相手の女王に突進する。サムライアリの女王はヤマアリの女王をつかんで体中のいたる所を容赦なく25分間も噛み続ける。彼女は争いの間中,瀕死の犠牲者の体液をなめる。そしてヤマアリの女王が死んだ瞬間,巣には劇的な変化が起きる。ヤマアリの働きアリたちは急におとなしくなり,サムライアリの女王へ静かに近づくと,これまで自分の女王にしたようにグルーミングを始める。