妊娠初期に決まる自閉症

P. M. ロディエ
200005

日経サイエンス 2000年5月号

9ページ
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自閉症はこの50年間,科学者たちを悩ませてきた。その複雑な行動は子供が3歳になる前から認められ,症状は多岐にわたる。自閉症の子供たちは他人の感情を理解できず,相手の怒りや悲しみ,そしてごまかそうという意図もわからない。彼らの言語能力には限界があり,会話を始めたり,続けたりすることができない。
 私が自閉症の研究に取り組みはじめたのは比較的最近であり,それも偶然からだった。発生学者の私は,さまざまな先天性脳障害の研究をしてきた。1994年に,ある先天性障害の会合ですばらしい発表に出会った。イリノイ大学シカゴ校のミラー(Marilyn T. Miller)とスウェーデンのイェーテボリ大学のストレームランド(Kerstin Stromland)が,サリドマイドの被害にあった患者の眼球の動きを研究している途中で驚くべき結果を得たのだ。何と,サリドマイド犠牲者の約5%が自閉症だった。この数値は一般人の割合の約30倍にもなる。
 自閉症の原因を探ろうと,研究者たちはいったいいつからこの病気が始まるのかを特定しようとずっと研究していた。それまでは,妊娠後期か生後すぐの時期に起源があるだろうと,このあたりに研究の焦点が絞られていたが,その仮説を支持する証拠はなかった。サリドマイドとの関連は,この分野に突然の光明をもたらした。自閉症は,胚の脳・神経系が発育を始める妊娠初期に原因があることを示唆していた。ミラーとストレームランドの発見は,自閉症の謎はもうすぐ解けるだろう,ということを私に確信させた。