水素の金属を作る

W. J. ネリス
200008

日経サイエンス 2000年8月号

9ページ
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通常は気体の水素に超高圧をかけると金属になることが実験で確認された。常温・常圧で金属水素ができれば,新素材やエネルギー分野で革命につながる。木星の内部構造を解明する手掛かりにもなりそうだ。
 水素は陽子1個と電子1個で構成される最も単純な元素だが,科学者が想像してきたよりもずっと複雑なことがわかってきた。水素は常温・常圧では気体で,2つの原子が結合した分子(2原子分子と呼ぶ)だが,20K(絶対温度),つまりマイナス253℃以下に冷やすと液体になり,14K以下で固体になる。気体,液体,固体のどんな状態でも,通常は電気を通さない絶縁体だ。
 しかし,1930年代,物理学者たちは,水素にきわめて高い圧力を加えると分子が壊れて原子になり(これを「解離」という),水素が導電性の金属になる,と予言した。1960年代になると,コーネル大学のアシュクロフト(Neil. W. Ashcroft)が,「固体の金属水素では電気抵抗がゼロになり,超電導状態になる」との説を唱えた。この状態を安定させ,常温常圧でも金属水素にしておければ,科学者が数十年にわたって探し続けてきた室温超電導体になる。金属水素はさらに,ほとんど場所をとらないエネルギー源になったり,軽量の構造材料として普及する可能性も秘めている。
 私たちの研究チームは最近,こうした可能性の実現に向けて一歩を踏み出した。ローレンス・リバモア研究所のガス銃を使って,液体水素を圧縮し,液体状の金属を作ることに成功した。液体金属になっているのは100万分の1秒以下というわずかな時間だが,その間にさまざまな性質を調べ,金属になったかどうかの決め手になる電気伝導度を測定するには十分な長さだ。
 固体の金属水素を作るという最終的な目的はまだ達成できていない。しかし,私たちの実験結果から,水素が超高圧や高温のもとでどう振る舞うか,多くの知見を得られた。これらの知見から,核融合実験炉で効率的にエネルギーを作り出す手掛かりを得られる可能性がある。また,木星の内部がどうなっているかの研究も進むだろう。木星は質量が非常に大きく,その内部では液体の水素が圧縮されて金属になっていると考えられるからだ。