特集:ヒトゲノム解読をめぐる競争
新薬開発のカギ握るバイオインフォマティクス

K. ハワード
200009

日経サイエンス 2000年9月号

7ページ
( 2.2MB )
コンテンツ価格: 611

企業や政府機関の研究者は,アデニン(A),シトシン(C),チミン(T),グアニン(G)の塩基が3 つ1 組で構成する遺伝子コードを示す情報を3 ギガバイト(1 ギガは10 億)蓄積している。
 しかし,これは最初のごくわずかな情報にすぎない。今後,ヒトゲノムから洪水のように情報が流れ出してくる。現在,ヒトゲノムの巨大なデータベースが構築されているところだ。このデータベースには,個々の遺伝子が,体のどの部分で,いつ発現するのか,その遺伝子がつくり出すタンパク質の形態はどんなものか,タンパク質はどう相互作用するのか,病気でこの相互作用の果たす役割は何かなど,詳細な情報が入っている。セレーラ・ジェノミクス社の副社長,マイヤーズ(Gene Myers, Jr.)は,こうした状況を「情報の津波」と呼ぶ。コンピューター科学と生物学が合体したバイオインフォマティクス(生物情報科学)は,洪水のような情報の意味を明らかにする新たな学問分野だ。研究が進むにつれ,バイオ医薬品の様相も変わるにちがいない。
 マイヤーズは,「今後2,3 年間で情報は驚異的に増加し,誰もが圧倒されるだろう。競争の焦点は,誰が一番巧みに有用な情報を掘り起こせるかだ。そこにはすばらしい宝の山が隠されている」と言う。
 投資銀行オスカー・グラス& サン社のリード(Jason Reed)の推定では,今後5 年以内にバイオインフォマティクスは20 億ドルのビジネスに成長するという。バイオインフォマティクス関連の企業は,データの収集・蓄積,データベース検索,データの解釈などをする。ほとんどの企業は,情報へのアクセス権を製薬会社やバイオ企業に販売している。契約料は高い場合で数百万ドルにものぼる。多くの製薬会社がこうしたサービスに契約料を支払い,あるいは社内に高額を投資して自社データベースを開発しようとしている。バイオインフォマティクスを利用すれば,医薬品開発の初期の段階で優れた医薬品のターゲット(医薬品による攻撃目標)を発見できる見込みがあるからだ。これを効率化できれば,臨床試験段階に移す医薬品候補の数を減らせるので,全体の費用もかなり削減できる。また,研究開発期間を短縮し,医薬品が市場に出回る期間(特許期間が終了するまで)を長くできれば,利益も今までより多く見込める。