特集:様相変わる戦争
小型火器の拡散が迫る軍備管理

J. ボートウェル
M. T. クレア
200009

日経サイエンス 2000年9月号

8ページ
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1994 年,ルワンダで起きた大量虐殺をめぐり,メディアの大半は“昔ながらの武器”が使われたことを強調した。フツ族過激派がこん棒やナイフ,鉈(なた)などを使用したという報道だ。ツチ族とフツ族穏健派の死者は100 万人に達し,犠牲者の多くは女性と子供たちだった。報道だけを見聞きした人は,ルワンダの人々が暴徒化して,ありふれた農具を格好の武器として使ったように思えたかもしれない。
 しかし,これが事件の全貌ではない。フツ族が支配する政府は,殺りくが始まる前から,正規市民軍と(非正規軍の)民兵組織に対して自動小銃や手投げ弾を配っていた。大量虐殺を可能にしたのは,こうした火力だった。市民軍メンバーは,銃や手投げ弾で犠牲者を威嚇して寄せ集め,刀やナイフを使って組織的に虐殺した。農具を使った殺人は,中世によくあった一時的な精神錯乱のようにも見える。しかし,大量虐殺の背景にこうした武器の使用や,武装した民兵組織があったことは,きわめて現代的といえる。
 こうした状況はルワンダに固有のものではない。冷戦終結後,バルカン半島や東ティモール,アフリカ全土で民族紛争や宗教対立,派閥抗争が続発し,市民が当たり前のように虐殺されるのを,世界中の人々が目撃してきた。1990 年以降,地域紛争の発生は100件を超え,1980 年代の2 倍に急増した。これらの紛争で500 万人以上の人々が死亡し,地域全体が荒れ果て,数千万人の難民や孤児が発生した。
 近代の戦争では戦車や砲兵隊,軍用機による破壊が当たり前になっているが,最近の地域紛争では近代兵器による破壊はほとんどなく,けん銃や機関銃,手投げ弾が主力兵器となっている。冷戦終結は世界にとって有益なことだったが,冷戦崩壊とともに余剰兵器が世界に大量に流出し,地域紛争の危険性を著しく高めたことも否定できない。