レーザーの新たな革命「フェムト秒技術」

J.-M. ホプキンス
W. シベット
200011

日経サイエンス 2000年11月号

12ページ
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超短パルスレーザーは1960年代半ばに開発され,その後,飛躍的に改良が進んだ。特に,過去10年間では,10フェムト秒より短いパルスを放つレーザーが開発され,小型で用途が広い新世代の超短パルスレーザーも登場した。旧世代の極短パルスレーザーは大型で,動作が不安定で,出力不足だったのに比べると,まさに革命的な変化だ。
 こうした新世代レーザーは高度な非線形光学現象や,同時に開発が進んだ半導体レーザーの成果を取り入れている。レーザーを産業や医療分野に応用するには厳しい仕様や信頼性が求められ,その要求は一段と厳しくなっている。新型レーザーはこうした要求を満たせる水準になってきた。
 21世紀になると,超短パルスレーザーはより広い分野に応用され,その重要性も高まるだろう。レーザーの波長はエックス線からT線(赤外線よりも波長の長いテラヘルツ放射)まで幅広く及び,レーザー光のピーク出力もペタ(1ペタは1兆)ワットというとてつもない大きさになるだろう。これを利用して,物理学や化学,生物学,デジタル光技術などの分野で新しい応用技術が数多く生まれ,科学界や産業界で世界的な関心を引きつけるに違いない。
 超短パルスレーザーの多くは,パルス1つ1つが瞬間的に放つきわめて高い出力を利用している。レーザーの平均出力はかなり小さく,1つのパルスがもつエネルギーの総量も小さいが,それぞれのパルスの持続時間が非常に短いため,瞬間的なピーク出力はきわめて高くなる。
 典型的な超短パルスレーザーの場合,パルス同士の間隔はパルス自体の持続時間の10万倍も長い。この結果,ピーク出力も平均出力の10万倍になる。例えば,100フェムト秒のパルスが3マイクロジュールのエネルギーをもっていたとする。このエネルギーでは1滴の水を100万分の1℃暖めるのさえ難しい。しかし,このパルスのピーク出力は30メガワットにも達する。
 これだけ高い出力をごく小さい領域に集中して照射すると,ほとんどの物質は溶けてしまう。このため,超短パルスは,機械の微細加工やせん孔,切削の有力な道具になる。パルス強度を適切に決め,ビームの最も明るい中央部分のエネルギーが物質の蒸発限界をわずかに超えるようにすれば,ビームの太さより狭い範囲を精密に加工できる。
 パルスによるこうした精密加工技術は,ダイヤモンドやチタンカーバイド,歯科用エナメルの加工などで裏付けられた。驚いたことに,パルスレーザーは高性能爆薬を安全に薄く切断できる。パルスを照射した部分の物質だけが蒸発し,その周囲の材料は爆発しないですむからだ。この手法を兵器の破棄などに応用すれば,実用的な技術になるだろう。