地球温暖化に潜む熱帯病の脅威

P. R. エプスタイン
200012

日経サイエンス 2000年12月号

11ページ
( 3.1MB )
コンテンツ価格: 713

地球が温暖化するとマラリアなどの熱帯病が急増する。温暖化によって生態系の微妙なバランスが崩れることが原因だ。熱帯病の犠牲者を増やさないためには,公衆衛生の強化が必要になる。
 地球の大気が温暖化していることを疑う科学者は,最近ではほとんどいない。大部分の科学者は,温暖化のペースが今後加速し,気温の変化が地球に破滅的な結果をもたらすと口をそろえて指摘する。高校生でさえ,温暖化がどんな影響をもたらすかを容易に説明できる。海水温が上昇し,氷河が溶け,海水面が高くなり,沿岸部の低地にある住宅地に高潮が押し寄せる。農業に適した地域も変化する。天候パターンは一段と不規則になり,嵐も激しさを増すだろう。
 あまり知られていないが,もっと深刻な影響もある。温暖化やそれに伴う気候変動が起こると,さまざまな重い病気が多発し,世界各地に広がる。これは,多くのコンピュータモデルがはっきりと予測している。心配されるのは,こうした予想が現実のものになろとしていることだ。
 大気の温暖化がどのように健康に影響するのか,その経路はいくつか知られている。最も直接的な影響は,熱波が頻発し,その強さも増すことだ。日が暮れても気温が下がらず,夕涼みの楽しみを奪われたとしたら,多くの人が裏切られた思いをするだろう。
 不幸にも,夜間に温度が下がらない現象はすでに起きている。大気の温度が不均一に上昇し,夜間に温度が上昇したり,冬期や北緯(南緯)50度以上の高緯度地域での温度上昇が大きかったりする。熱波による死者の数が2020年までに2倍に増えると予想される地域もある。さらに,熱波の長期化がスモッグを生み,アレルギー原因物質の拡散を強める恐れもある。スモッグ,アレルギー物質の両者とも呼吸器疾患の原因になる。
 地球温暖化が進むと天気のパターンが変わり,間接的にも人の健康を脅かす。とりわけ,洪水や干ばつが頻繁に発生し,その規模が大きくなることや,天候が急変するようになり,人の健康にとって脅威になる。過去100年間,大気が温暖化し,乾燥地域で干ばつが長期化したり,集中豪雨が頻発したりするようになった。こうした気象災害の結果,溺死や飢饉による死者が増えただけでなく,さまざまな感染症の発生や再発,まん延を促している。