特集:幕開ける脳科学の世紀
認知に果たす「無意識」の役割
大脳基底核の役割と学習

彦坂興秀(順天堂大学医学部第一生理学教室教授)
200101

日経サイエンス 2001年1月号

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 脳科学はこの10年で,大きな広がりを持つ研究分野となった。これまでの自然科学の分野をすべて合わせたような多様性さえ感じられる。ここまで来ると研究者同士でさえも理解が難しいのではという声もあるが,私は,多様性を前提にすることこそが脳科学にとって重要だと考えている。多くの研究者が違ったアプローチで脳に迫ることが必要であり,それがこの分野全体の原動力にもなっているはずだ。
 1970年代の前半,米国立衛生研究所(NIH)眼科学研究所のワーツ(Robert H. Wurtz)とゴールドバーグ(Michael E. Goldberg)らは,アカゲザルを使って,視覚刺激に対するニューロンの働きを調べる実験を行った。スクリーン上に示した光スポットを動かしたときの眼球運動と,上丘(網膜からの信号を受ける場所)のニューロン活動の変化を記録している。これは,視覚の脳内機構を調べるものとしては画期的な実験で,1972年に発表されたワーツらの4つの論文は,以後の認知脳科学の基礎になっていると言ってよい。
 こうした論文に刺激を受けて,私の研究も眼球運動や反射からスタートしたが,現在は,人間の行動の選択の仕組みに関心が移ってきた。大脳基底核を中心に,強化学習や手続き学習から,学習,記憶,感情などを探っていきたいと考えている。