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もうすぐ,どうということのない普通のアイオワのウシが,世界で初めて絶滅危惧種のクローン個体を産もうとしている。ノアと名付けられることになっているその雄の仔ウシは,大型のウシの仲間のガウルという種だ。ガウルの本来の生息地はインドやインドシナ半島,東南アジアだが,野生のガウルは数が減っている。成長すると体重が1トンにもなるこの野牛は長年にわたってスポーツ狩猟の対象となってきた。さらに最近ガウルの生息環境である森林や竹林,草地が次第にせばめられてしまった。現在,ガウルは野生では3万6000頭しか残っていない。国際自然保護連合(IUCN)が出しているレッド・データ・ブックでは,ガウルは絶滅危惧種(endangered species)となっている。
すべてが期待通りに進めば,ひょろ長い足をした小さなノアは,ガウルだけでなく,他の多くの絶滅危惧種の保護に対しても新しい一歩を踏み出すことになる。最も重要なことは,ノアが正常に発育することによって,ある動物が別種の動物の遺伝的コピーであるクローン個体を妊娠,出産できることを証明した点だ。そしてノアこそ,私たちやほかの科学者がつくろうとしている“絶滅危惧種の方舟”の最初のメンバーとなるだろう。