特集:究極の光ネットワーク
エレクトロニクスと決別する光通信

G. スティックス(Scientific American編集部)
200104

日経サイエンス 2001年4月号

8ページ
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 信号を処理するのに電子を使わず,光子(光の情報を運ぶ粒子)のまま送信する「フォトニクス(光工学)」が脚光を浴びている。現在,電話局などで回線の切り替えに使われる交換機はエレクトロニクスに基づいているが,フォトニクスが普及すればその大半が時代遅れになる可能性がある。現在の最先端のネットワークの通信速度は毎秒10ギガビット(1ギガは10億)程度だが,既存の交換機に組み込まれた小型演算処理装置(プロセッサー)やメモリーの能力はこの速度でも限界に近づいているからだ。
 ネットの通信速度が演算装置の能力を超えるようになると,光ファイバーとエレクトロニクスを併用する方式ではコストを大幅に押し上げてしまう。現在のギガビット級の高速通信ではファイバーを伝わる光の波長をいったん低速のデータの流れに変換し,電気信号として処理した後に再び光に戻している。つまり,光子が運ぶ情報を電子に移し,それを再び光子に移し替えている。この方式では情報スーパーハイウエーの通信速度が下がるだけでなく,高価な機器が必要になる。
 ネット技術者は装置の能力不足を補おうと知恵を絞り,大企業からベンチャー企業まで数百のハイテク企業が光信号を電気信号に変換しないですむ新技術の開発を進めている。伝送や信号多重化,増幅,交換などすべての段階で,あらゆる帯域の光信号をそのまま処理する技術だ。
 光パケット通信が実現すれば,ネットワークの設計技術は大きく変わる可能性がある。現在の通信業界の標準は「同期光ネットワーク(SONET)」と呼ばれ,エレクトロニクス技術を使って個々のパケットを交換したり,処理している。SONETは広く普及しているが,光スイッチが普及すれば時代遅れになる公算が大きい。また,電話通信で普及している「非同期転送モード(ATM)」もすたれる可能性が高い。
 究極の光ネットワークは,音声や動画,データなどあらゆる種類の情報をIPパケットの形で伝送する「IPネットワーク」になるはずだ。今後,通信分野をリードする技術開発テーマは音声,動画,データを融合させる技術で,20年後にはそれが完了しているだろう。「通信ネットワークはデータネットに変わっていく。データ以外の情報は音声も画像も,すべてがデータネットワークで送られるようになる」という見方も強まっている。