特集:究極の光ネットワーク
実用化近づく光交換技術

D. J. ビショップ
C. R. ジルス
S. R. ダス
200104

日経サイエンス 2001年4月号

8ページ
( 2.1MB )
コンテンツ価格: 611

 19世紀に鉄道網が急速に拡大した一因は,主要都市間を結ぶ鉄道が完成する前から,列車が多数の乗客を運ぶようになったことだった。都市の間に大きな河川があると,橋が建設されていなくても線路だけは川岸まで延びた。線路は河川の堤防で途切れ,反対側から別の線路が延びるという具合だ。鉄道の乗客はいったん列車を降り,フェリーに乗り換えて川を渡り,反対側の岸で別の列車に乗った。
 こうした手間のかかるやり方では,都市間で人や物資を輸送する速度はどうしても遅くなってしまう。川に橋が架かると移動時間は目に見えて短縮された。
 これと同じ現象が光ネットワークの世界で起きている。遠隔地を結ぶ通信では光ファイバーでデータを送ることが増えてきた。ただ,ネットワークの中で情報の送り先を決める交換機は19世紀のフェリーとよく似ている。現在の交換機は光信号を直接切り替えるのではなく,いったん電気信号に変換している。この結果,音声や画像,データなどの情報は「光のハイウエー」からいったん抜け出て,電子交換機(デジタル交換機)という「低速のインターチェンジ」を経由しないと,ある地点から別の地点へ伝送されない。
 この「光─電子─光変換」はさらにやっかいな問題を抱えている。光ネットワークの機軸となる技術は「フォトニクス(光工学)」と呼ばれるが,フォトニクスで起きている技術革新に比べると,エレクトロニクス(電子工学)の進展は遅く,「エレクトロニクスのボトルネック」と呼ばれる問題が深刻化しているからだ。
 次世代の通信ネットワークでは,遠隔地を光ファイバーで結んで情報を送るだけでは不十分だ。フェリーのように“ネットのボトルネック”となっている光─電子変換をしなくてもすむように,光信号を直接処理する新しい交換機技術が必要になる。この解決策として,さまざまな方式の「光スイッチ」が実用化を目指して競争を繰り広げている。具体的には,微小な鏡や液体の泡など従来になかった手法を駆使して光信号を切り替える技術だ。