特集:宇宙論の新展開
暗黒エネルギーが支配する宇宙

J. P. オストライカー
P. J. スタインハート
200104

日経サイエンス 2001年4月号

10ページ
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現代の宇宙論は成功を収めようとしているのだろうか。宇宙は,おおまかには解明されているのだろうか。数年前まで,それらは成功を収め,解明されたと思われていた。長年の議論を経て,科学者は宇宙の歴史の標準的なシナリオにたどりついた。宇宙は想像もできないくらい高温,高密度のガスや放射で満ちた状態から始まった。それから現在に至るまで150 億年もの間,宇宙は膨張し,冷えていった。
 銀河やほかの複雑な宇宙構造は,微小な種,つまり量子ゆらぎから成長した。量子ゆらぎは,「インフレーション」により瞬時に宇宙論的な大きさに引き伸ばされた。宇宙にある物質はごく一部だけが,日常経験で目にするような普通の化学元素でできている。しかし,宇宙の物質の大半は,光と相互作用しない謎の素粒子,いわゆる暗黒物質だ。宇宙については,多くの謎が残されているが,少なくともその全体像は明らかになった。
 これが,多くの科学者の考えだった。だが,私たちは宇宙のシナリオで主要なことを見落としていた。過去5 年ほどの観測により,化学元素と暗黒物質を合わせても,宇宙を満たす全物質の半分以下にしかならないことがわかった。
 残りの宇宙の物質の大部分は,「暗黒エネルギー」で占められている。暗黒エネルギーは,「その重力が引力でなく,反発力」という奇妙な特徴をもつ。重力は,化学元素と暗黒物質を引き寄せ,星や銀河を形成する一方で,暗黒エネルギーを押し広げ,もやのように空間に一様に分布させる。宇宙は,その2 つの性質の競合関係にあり,反発する重力が打ち勝っている。反発する重力は,普通の物質の引力を圧倒し,宇宙膨張を加速させ,おそらく新しいインフレーション時代に導くだろう。これは10 年ほど前に宇宙論の研究者が描いていた宇宙の未来像とは異なる。