特集:宇宙論の新展開
現代宇宙論を採点する

P. J. E. ピーブルス
200104

日経サイエンス 2001年4月号

2ページ
( 1.7MB )
コンテンツ価格: 407

宇宙論の研究者にとって今はわくわくする時代だ。発見が相次ぎ,アイデアが次々にわき,それを試す研究であふれかえっている。一方で,今は混乱の時でもある。論議を呼んでいるあらゆるアイデアが正しいとは決していえない。それらが互いに食い違ってさえいる。この状況をどう判断すればよいのか。私なりの考えを示したい。
 宇宙論の研究者がこの分野の創設時に確立した理論が,今覆されている。過去70 年間にわたって,私たちは私たちの宇宙が膨張し,冷えている証拠を数多く集めてきた。1 つ目は,宇宙が膨張し銀河が互いに遠ざかっているとした場合に予想されるように,遠い銀河からくる光は,赤い方にずれていた事実だ。2 つ目は,宇宙がより熱く,より高密度とした場合に予想されるように,熱放射が宇宙に満ちている。
 3 つ目は,かつて宇宙の温度がかなり高かったとした場合に予想されるように,宇宙には重水素とヘリウムが大量にある。4 つ目は,銀河がまだ存在しない時代に近いとした場合に予想されるように,数十億年前の銀河は若々しく輝いている。最後に,宇宙膨張を想定したアインシュタインの重力理論,一般相対性理論に従うかのように,時空のゆがみが宇宙の物質構成に関係しているようにみえる。
 宇宙が膨張し,冷えているというのが,ビッグバン理論の本質だ。ビッグバン理論はもはや疑いようがない。理論は観測結果と極めてよく合致している。
 最近の定常理論のように急進的な代替理論でも,宇宙が膨張し,冷えている点に疑いをはさんでいない。確かに宇宙論では異なる意見があるが,意見の違いは強固な部分への付け加えに関係している。
 例えば,私たちは宇宙が膨張する前どうなっていたのかはわからない。中心的な理論とされるインフレーション理論は,ビッグバンの枠組みへの魅力的な付け加えだが,補強が十分ではない。宇宙論の研究者が現在,まさに探し求めているのはこの補強だ(「宇宙論検証のカギ握る重力波観測」48 ページ)。
 現在進められている観測計画の結果がインフレーション理論に特有の特徴に合致するなら,その時私たちはこの理論を説得力のある主張とみなすだろう。しかし,その時まで,インフレーションが実際に起こったのか私は断定するつもりはない。私はその理論を批判していない。私は単にこの理論がまだ確認の必要な先駆的な研究と言っているだけだ。