特集:しのび寄る水資源危機
節水と食糧増産の両立は可能か

S. ポステル
200105

日経サイエンス 2001年5月号

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 現在,農業で使われる水は世界の水使用量全体のおよそ2/3を占め,発展途上国では90%に達する国も多い。2025年には地球の人口は80億人に達し,食糧需要も大幅に増加すると見込まれている。これほどの人口を養えるだけの食糧を生産するには,水の供給をおよそ8000億m3も増やす必要があり,これはナイル川の年間流量の10倍以上に匹敵する。水資源を守りながら,急増が見込まれる水需要にどう対応していくのか,明確な手立てはまだ見つかっていない。
 将来,食糧を増産していくにはさまざまな課題があるが,最大の課題は深刻な水不足だ。現在でさえ,地下帯水層や河川など淡水の主要な供給源からの取水は過剰になっている。農作物の8%は地下水を利用して栽培されているが,地下水の汲(く)み上げは帯水層を涵養(かんよう)するペースを上回っている。河川でも,流域で大量に取水している結果,下流域では年間を通じてかなりの期間,水が干上がり,河口まで水が届かない川が増えている。また都市部の人口は2025年までに50億人に達すると見込まれており,乏しい水資源の確保をめぐり農業従事者と都市住民,産業界の間で水の奪い合いが深刻化する可能性もある。
こうした問題を克服し,世界規模で増大する食糧需要をまかなうため,農業専門家が期待を寄せているのが潅漑農業の高度化だ。自然の雨水だけに頼る農業でも,土壌と水を適切に管理し,作物の選定や栽培時期を十分に考慮すれば収穫を増やせる。しかし,農地から最大限の収穫を得るには潅漑農業が最も適している。潅漑農業のこうした可能性を最大に活用するには,2つの視点から農法を抜本的に見直す必要がある。1つは,現在の農業の主力である穀物生産などで水使用を減らすこと。2つ目は貧しい発展途上国で低コストの潅漑農業を普及させることだ。