長生きできる“理想の人体”

S. J. オルシャンスキー
B. A. カーンズ
R. N. バトラー
200106

日経サイエンス 2001年6月号

6ページ
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 人体は“生きた機械”といわれるが,昔より寿命が延びた今では,その保証期間をはるかに超えて無理に動かしているので,劣化が目立ってくる。そもそも進化という点からみると,人間の身体は欠陥を内蔵している。自然淘汰は遺伝的に調節される特質を形づくるための原動力であって,寿命を全うするまで人間を健康に保つためのものではないからだ。ある個体が繁殖するのに(そして,人間などの動物の場合は,子育てをするのに)十分なだけ生きられれば,その個体がもつ身体の基本構造は進化の過程で選択されて残る。例えば 50歳になったら完全に衰弱してしまうような身体の基本構造でも,若いときの生殖に支障がない限り,後半生に有害な結果が生じるとしても,次世代に伝えられていくのだ。
 加齢にともなう健康上の問題の多くは,完全なメンテナンスや修復システムを持たず,しかも長期間の使用,つまり永続的な健康を目的としてつくられていない身体を授かったために生じる。それを個人の責任に帰するのははなはだ不公平だ。もし生涯を通じて健康で長生きできる人体が設計され,そのように進化してきたとすれば,人間の姿は多くの「修正」が施され,だいぶ違ったものになっていたはずだ。