発毛のカギ握る生体分子

R. L. ラスティング(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)
200109

日経サイエンス 2001年9月号

11ページ
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 髪の毛はどのようにして伸び,なぜ抜け落ちるのか?その謎が分子レベルで解き明かされつつある。胎児に毛包ができる過程や,それぞれの毛包が一生を通じて繰り返し毛髪を作り出す仕組みについて,多くのことがわかってきた。ウィント(Wnt)という名前で知られる一群のシグナル伝達タンパク質が,これらの過程や仕組みを推し進める役割を担っている。Wntと同じようにシグナル伝達を調節する別の分子群も明らかになってきた。
 Wntは胎児期の皮膚細胞を毛包に変化させるほか,毛包細胞を刺激して毛髪を作り出すよう仕向けている。Wntは細胞にβカテニン(β-CAT)というタンパク質を分解しないよう指示を出す。βカテニンはリンパ球エンハンサー因子1(LEF1)やLEF1と類似のタンパク質と結合して,特定の遺伝子を活性化する。これらの遺伝子が細胞の特殊化を促すタンパク質を作り出し,毛包や毛髪ができるのだ。
 Wntやβカテニンが過剰になるとガンを誘発する作用があるため,これらをそのまま発毛剤として利用するわけにはいかない。しかし,Wntシグナル経路を構成する分子やこの経路と相互作用する分子を突き止めれば,毛髪の生成を促進したり逆に抑えたりする薬の標的物質となるだろう。
 ハゲは毛包が死滅するためではなく,毛包が萎縮したり機能不全に陥ることによって生ずることが少なくない。Wntや他の調節タンパク質の働きを操作する薬ができて,絶滅しかけた毛包を救い,萎縮した毛包を刺激して,再び元のように毛髪を伸ばせるようになるかもしれない。毛髪の成長をコントロールする知識が得られれば,不要な体毛を除去する新しい方法にもつながるだろう。