特集:現代の科学論争
遺伝子は本当に利己的か

長野敬
200111

日経サイエンス 2001年11月号

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 ドーキンス(Richard Dawkins)の著書『利己的な遺伝子(The Selfish Gene)』は世界13カ国語に翻訳された大ベストセラーだ。彼は遺伝子の利己性という観点から,動物や人間の社会行動を巧みに解説した。雄と雌の駆け引きも,なわばり争いも,自らのコピーを増やそうとする遺伝子のなせる技だというのだ。擬人化表現のわかりやすさも手伝って,利己的遺伝子という言葉はたちまち世に広まった。だが,これに猛然と反発した科学者もいる。その急先鋒グールド(Stephen Jay Gould)は,「進化の主体はあくまで個体。遺伝子ではない」と反論。いや,そもそも擬人化そのものに問題がある,こんな論争はナンセンスだ,と主張する科学者も。進化生物学を超えて,科学界,哲学界をも巻き込んだ「利己的遺伝子論争」の実体とは何だろうか。