転機迎えたウミガメ保護

E. ニーラー
200111

日経サイエンス 2001年11月号

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 メキシコ・カリフォルニア半島の太平洋沿岸では,祝いごとといえばウミガメ料理がつきものだ。イースター(復活祭)や誕生日,大切な客人の来訪といった特別な行事のたびに,ウミガメがふるまわれる。健康増進に「薬効」があるとして重宝がる地元民も多い。なかでもアオウミガメ(Chelonia mydas)は味もおいしいと評判だ。
 しかし,アオウミガメはメキシコの太平洋沿岸に生息する他の4種のウミガメと同様,建前上は捕獲が禁止されている。米国では1978年に「絶滅のおそれのある種に関する法律」でこのカメの捕殺を厳しく禁止し,メキシコも1990年に同種の法律で規制した。
 法律で保護しているだけではない。毎年,科学者やボランティアが,ウミガメが産卵のために上陸するメキシコ南部の海岸沿いに野営して,卵が盗まれたり,他の動物によって捕食されるのを阻止している。軍の部隊が動員されることも珍しくない。卵を守らない限り,ウミガメという種の存続もありえないからだ。
 しかし,このような懸命の努力にもかかわらず,主要な産卵場に戻ってくる成熟したアオウミガメの雌の個体数は激減している。1990年には1280頭だったが,2000年には145頭にまで減った。
 ウミガメたちは,いったいどこへ消えてしまったのだろうか。
 研究者たちにとって,漁村でアオウミガメがしばしば食用に供されることは何十年も前から周知の事実だった。しかし,ウミガメを食べるこの習慣が卵の盗掘とあいまって,個体数激減の主因と見なされるようになったのは,ごく最近のことだ。
 バハ・カリフォルニア自治大学の研究者が試算したところ,毎年,カリフォルニア半島では3万頭ものアオウミガメが密漁されているという。密漁者たちの“大のお得意さま”が,政治家や教師,軍人といった公職にある人びとであることも調査から浮き彫りになった。高級珍味に金をつぎ込む一方で,地位と権力を乱用して法の処罰を免れているのだ。(本文より)