特集:テロの背後でうごめく技術
サイバーテロの主役 “ゾンビ”ウイルス

C. マイネル
200201

日経サイエンス 2002年1月号

10ページ
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「悪性の風邪みたいなものですね。空気中のちりや水滴に付着したウイルスがあたり一面に飛び散る。健康でぴんぴんしていた人が急にくしゃみをしだし,死に至ることもある。外界から完全に隔離されてでもいない限り,防御はできません」。
 米インフォメーション・エクストラクション&トランスポート社の首席研究員ヨーゲンセン(Jane Jorgensen)が話題にしているのは,新型インフルエンザの流行についてではない。インターネットに襲いかかる災厄,つまりウイルスの話だ。バージニア州アーリントンにある彼女の会社は国防総省高等研究計画局(DARPA)と契約し,「インターネット疫学」とでもいうべき最先端の分野を研究している。実際,2001年の7月と8月,ネットを標的にした新種のコンピューターウイルスが立て続けに出現し,専門家の間に衝撃が走った。
 このウイルスは「コードレッド」と呼ばれ,まるでヘビの毒のように一撃でコンピューターを麻痺させる。感染するのはマイクロソフト社製の「インターネット・インフォメーション・サーバー(IIS)」と呼ぶシステムだ。家庭ではほとんど使われていないが,人気のあるウェブサイトの大半はこのシステムを採用している。コードレッドの2度にわたる攻撃では数十万台のIISシステムがみるみるうちに感染し,ネットの運用に支障をきたした。
 システム管理者などの専門家が肝を冷やした理由は,被害の大きさだけではない。将来,もっと手強いウイルスがインターネットを襲撃するおそれがあり,「コードレッドはその前触れにすぎないのではないか」と懸念されるからだ。
 「コードレッドは,どこかの政府機関が戦時にインターネットをつぶす目的で開発した一種の“実験用ウイルス”ではないか」と勘ぐる専門家もいる。2001年4月,米軍の偵察機が中国領内で不時着し,機体の返還をめぐって両国政府が折衝を続けていたさなか,ネット上でも米中間の“こぜりあい”が発生した。これが全面的なサイバー戦争に拡大すれば,先進国全体に及ぼす影響ははかりしれない。サイバー戦争では民間のパソコンが知らないうちに標的になり,感染したパソコンがゾンビのように増殖してさらに別の標的を攻撃する。その結果,膨大な数のパソコンが一網打尽になるおそれもある。