再生医療に挑むヒトクローン胚

J. B. シベリ
R. P. ランザ
M. D. ウエスト
C. エゼル(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)
200202

日経サイエンス 2002年2月号

8ページ
( 2.5MB )
コンテンツ価格: 600

2001年10月13日,アドバンスト・セル・テクノロジーの研究室。私たちが数カ月の実験を重ねて追い求めてきたものが,顕微鏡の視界に姿を現した。ちっぽけな点に見えるが,とても大きな可能性を秘めている。肉眼では見えないほど小さな細胞の塊で,見かけはどうということもないが,たいへん貴重なものだ。私たちの知る限り,核移植技術を使ってヒトの胚を作ったのはこれが初めてだからだ。ヒトのクローン胚ができたのだ。
 うまくいけば,100個程度の細胞が集まった中空の胚盤胞に育つだろうと思われた。胚盤胞から幹細胞を取り出し,それをもとに補充用の神経や筋肉などの生体組織を育て上げ,いつの日かさまざまな病気の治療に役立てるのが私たちの目的だ。
 残念ながら,クローン胚のうち1個が6つに分割したのが最高で,成長はそこで止まってしまった。しかし,別に行った実験では,ヒトの卵子を精子なしに“受精”させ,単為生殖的に胚盤胞を作り出すことに成功した。
 私たちは2001年11月24日,オンライン専門誌のe-biomed: The Journal of Regenerative Medicineにこれらの成果を公表した。今回の成果を組み合わせれば「クローン治療」というゴールに手が届くようになり,新時代の医療の幕が上がる。
 クローン治療は,患者自身の細胞から取り出した遺伝物質を利用して治療用の細胞を作り出し,患者に移植して病気を治そうという試みだ。例えば膵島細胞を作って糖尿病を治療したり,神経細胞を作り出して脊髄損傷を修復する(訳注:幹細胞などから生体組織を育てて治療に使う「再生医療」のうち,患者自身のゲノムを備えた細胞を利用するものを著者たちは「クローン治療」と称している)。
 したがって,クローン胚を子宮に移植してクローン人間を誕生させようとする生殖クローニングとは目指すものがまったく違う。生殖クローニングは母体と胎児の双方に危険が及ぶ可能性があり,現時点では認められていない。安全性と倫理的な問題が解決されるまで,生殖クローニングを規制することに私たちも賛成だ。