大量絶滅は避けられるか

W. W. ギブス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)
200202

日経サイエンス 2002年2月号

12ページ
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2001年8月,米ハワイ州ヒロで開かれた保全生物学会の年次大会。オックスフォード大学の動物学者メイ(Robert M. May)が行った基調講演は,楽観論者たちの希望的観測を完膚なきまでに打ち砕いた。メイは2000年まで英国政府の首席科学顧問を務め,現在は英王立協会の会長職にある大御所だ。その彼の最新の試算によると,過去100年間の絶滅確率(一定期間に生物種が絶滅する割合)は人類の出現前と比べておよそ1000倍も高まった。さまざまな意見を勘案すると「22世紀の終わり頃までに絶滅確率はさらにこの10倍に高まるだろう。私たち人類はまさに,地球の生物史上,“第6の絶滅”とでもいうべき崖っぷちに立っているのです」。
 地球上の種の“ポートフォリオ(構成比率)”が崩れ,種の数も減っていることが,なぜ憂慮すべき問題なのか,「ひとりひとりが自分に問いかけてみなければならない」とメイは続けた。「これは問題の核心であり,価値観をめぐる政治的・社会的な問いでもあります。そうやって改めて考えてみると,保全生物学者の意見にもろ手を挙げて賛成する人は一体どれだけいるだろうか」。そしてメイは講演をこう締めくくらざるを得なかった。「種の保全がいかに大切かを政治家に納得してもらおうと,私たちは3つの理由を掲げています。しかし,このどれひとつとして,まともな説得材料に値するものではありません」──。
 メイの見解はきわめて悲観的だが,この分野では共通の認識だ。『レクイエム・フォー・ネイチャー(自然への鎮魂歌)』といったタイトルの本が売れていることを見ても,悲観論の広がりがうかがえる。しかし,こうした見方には本当に根拠があるのだろうか。
 折しも,デンマークの統計学者でオーフス大学教授のロンボーグ(Bjorn Lomborg)の著書が『スケプティカル・エンバイロメンタリスト(懐疑的な環境保護論者)』と題して英訳された。この中でロンボーグは,生物多様性の消失をめぐる従来の報告はひどく誇張されてきた,と批判している。
 内憂外患ともいえる状況下で,従来の環境保護運動の路線が正しかったのかどうかと自問する研究者もいる。希少種や脅かされているホットスポット(数多くの希少種がそこだけに生息し,多くの環境保護団体が優先的に保全活動に取り組んでいる場所)を守ることばかりを優先してきたのは,適切だったのか。同じように危機的な状況にあるもっと価値の高いもの,つまり「進化自体の保全」に重点を移すべきではないか,という問いかけだ。