宇宙の万華鏡──重力レンズ

J. ワンブスガンス
200202

日経サイエンス 2002年2月号

11ページ
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天体の重力が光を曲げる「重力レンズ」効果によって,宇宙は万華鏡さながらの不思議な姿に見えている。その“幻影”を詳しく調べた最近の研究で,宇宙の本当の姿が浮かび上がってきた。
 宇宙は想像を絶する奇妙な天体や理解を超えた現象に満ちあふれている。まるで人を惑わす「鏡の間」のようだと多くの人は思うかも知れない。実はそれがピッタリで,星や銀河,銀河の集まった銀河団が重力レンズになり,遠くにあるクエーサーやさまざまな天体像をいくつにも見せたり,細長いひも状に伸ばした画像として我々にはとらえられてきた。
 重力レンズの研究は,観測科学としてはまだ若い学問分野だ。最初の重力レンズ天体である二重クエーサーQ0957+561は1979年に発見された。10年くらい前に天文学者は数個のレンズ天体を発見した。
 それ以来,さまざまなタイプの新しい重力レンズを検出し,調べてきた。いわゆるクエーサーや星のマイクロレンズ現象を手始めに,銀河団のアーチ構造や弱レンズ現象,さらに2000年には,宇宙の大規模構造の非常に弱いレンズ効果によって引き起こされた,微細なズレまで見つかってきた。質量をもつものは何であれ,たとえそれ自体が輝いていなくても,重力レンズになりうる。したがって,重力レンズ効果は,天文学者にとっては,目に見えない暗黒物質(ダークマター)の地図を作る数少ない手段になる。重力レンズは,クエーサーの内部構造を探る手法にも使えるし,星間空間をさまよっているブラックホールのありかを突き止め,星の周りにある地球の大きさの惑星を検出するのにも役立つだろう。