創刊30周年記念佳作論文要約
歩行にみる固有パターンの存在

滝口清昭
200202

日経サイエンス 2002年2月号

4ページ
( 1.8MB )
コンテンツ価格: 500

犬や猫は遠くからでも飼い主の足音を識別するという。履物という“楽器”の音の特徴以外にも,曲や演奏方法にあたる歩行運動のパターンやリズムに個人個人の特徴があるのだろう。こうした微妙な運動パターンを精密に測定しようとしても,従来の設備では,被験者の“自然な歩行”を調べるのは難しい。私のグループは,歩行に伴って人体に生じる電位変位から,長時間にわたる自然な歩行をとらえる方法を新たに開発した。測定に応用したのは日本人研究者が80年前に発見した「エレクトレット現象」である。この研究から,従来の測定法では難しかった,接地していないときの足,つまり歩くときに蹴り出された足の運動パターンをとらえることができ,そこに明確な個人差があることを発見できた。
 精密制御技術の向上により,障害者用のロボット義足をはじめとする様々な歩行補助装具の実用化が急速に進んでいる。また,医療分野では従来は不可能だった脳や脊髄神経そのものの再生が,神経幹細胞の移植によって可能となる時代を迎えようとしている。
 こうしたハードウエアの進歩を実りあるものにするには,歩行運動のパターンやリズムといったソフトウエアの研究が必要だろう。治療により再生した運動感覚神経系の再学習やロボット義足の制御などには,ソフト面の研究が不可欠だ。特に,様々な歩行の個人差を反映させた装具・歩行補助ロボットの制御や評価,そしてリハビリテーション用のデータ取得や評価ソフトは今後,極めて重要になるだろう。