ゲノム研究で加速する抗ウイルス薬開発

W. A. ヘーゼルティン
200204

日経サイエンス 2002年4月号

10ページ
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近年,ウイルスを対象にしたゲノム情報科学(genomics)の進展が抗ウイルス薬の開発に重要な貢献をしてきた。この研究分野では,ゲノム(ある生物の持つ遺伝情報全体を指す)に記されている暗号の解読が進められている。ウイルスのゲノム暗号は,ウイルスがタンパク質を作るための設計図であり,できたタンパク質はウイルスの構造を作るとともに,ウイルスが機能を発揮するために重要な働きをしている。
 あるウイルスの遺伝子に記されている暗号を部分的にでも解読できれば,そこから作られるタンパク質の構造や機能も推測できる。それを手がかりにすると,ウイルスが病気を引き起こすメカニズムが詳しくわかり,感染を制御するにはウイルスのライフサイクルのどの部分を攻撃すれば効果的かを解明できる。今日では,どのようなウイルスでも数日以内に全ゲノム暗号を解読できるので,ウイルスの弱点を発見するまでの時間は大幅に短縮された。
 現時点で市場に出ている抗ウイルス薬の多くは,HIV,ヘルペスウイルス,B型及びC型肝炎ウイルスを標的にしている。ヘルペスウイルスは,口唇ヘルペスから脳炎にいたる多彩な症状を引き起こす。また,B型やC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎になると,その後肝臓ガンを患う確率がかなり高くなる。
 HIVやB型・C型肝炎ウイルスは,米国内だけでも毎年25万人,世界で数百万人もの患者に深刻な感染症を引き起こしており,ここしばらくは抗ウイルス薬研究の焦点となるはずだ。もちろん,他のウイルス感染症の治療薬の開発も精力的に進められている。