出産の進化

K. R. ローゼンバーグ
W. R. トリーバスン
200204

日経サイエンス 2002年4月号

7ページ
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人間はふつう木の上で出産する習慣はない。しかし2000年3月,モザンビーク南部を襲った洪水の真っただ中で,ソフィア・ペドロは樹上出産を余儀なくされた。ソフィアは700人以上もの命を奪った荒れ狂う洪水の濁流を逃れ,木の上で4日間を生き延びた。数百万年前から,霊長類は木の上や茂みに身を隠し,自力で子どもを産んできた。ヒトは出産に際して他者からの介助を必要とする唯一の霊長類だ。では,われわれの祖先はいつ,そしてなぜ,誰の手も借りずにひとりで子どもを産む習慣を放棄したのだろうか?その答えは,困難と危険をともなうヒト特有の出産の特徴にあった。
 出産という作業が容易ではないことは,経験上多くの女性が知っている。これはヒトが大きな脳,そして高度な知能を得た代償だ。ヒトの頭は身体の大きさの割には飛び抜けて大きい。よく知られているように,ヒトが直立歩行を始めたために,胎児の通り道である骨盤内腔の広さが制限されるようになったのだ。しかし,胎児が産道を通る際に複雑に身体をひねったり回転したりするために,10万年以上にわたってヒトとその祖先が出産で苦しんできたということが人類学の研究によってわかってきたのは,つい最近だ。