特集:発見の科学
類似歌を探せ
デジタル国文学の新展開

竹田正幸
福田智子
200205

日経サイエンス 2002年5月号

8ページ
( 1.9MB )
コンテンツ価格: 611

よく知られた古い歌をもとにして新たに歌を作る方法を「本歌取り」という。本歌取りは,そのもとになる古い歌を皆が知っていることを前提にしたものだ。本歌取りに限らず,表現上「似た歌」を探す作業は和歌の研究では非常に重要だ。似た歌を比較・検討するなかで,一見気づきにくい作者の意図や歌の眼目が鮮明に浮かび上がってくることがある。さらに作者は誰か,いつごろの歌かなど,さまざまな問題解決の糸口にもなりうる。
 従来,国文学者は,個人の知識を土台にして,ときにはひらめきや直観から似た歌を拾い上げてきた。しかし単純にいっても,たとえば平安時代の『古今集』には1111首,『後撰集』には1425首の歌が載っている。この2つの歌集の間だけで考えても歌の対は1111×1425=約160万通りになり,人手でひとつひとつの対をチェックしていくのは不可能だ。
 そこで何とかこの作業を機械化できないか,というのが私たちの研究だ。計算機に大量の和歌データの中から類似歌の候補を拾い出させる。類似歌の候補を計算する際には,和歌の意味にとらわれず,和歌の31文字を単なるかな文字の連鎖とみて,文字列として似た歌を探す。それに国文学研究者が専門的な観点から意味づけをしていくのだ。
 著者の1人(竹田)の専門は情報科学で,国文学にはまったくの門外漢だが,この手法で得た類似歌候補をもう1人の著者である国文学研究者(福田)が専門的に評価したところ,和歌研究の上でまったく新しい発見ができた。