見えてきた老化防止薬

M. A. レーン
D. K. イングラム
G. S. ロス
200210

日経サイエンス 2002年10月号

8ページ
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今現在,世間に出回っているいわゆる“老化防止薬”で,ヒトの寿命を延ばすことが実際に証明されているものは何ひとつない。老化とともに体を構成する分子や細胞に傷が蓄積していき,病気にかかりやすくなるという現実は避けられない。しかし,さまざまな動物実験から,バランスのとれた低カロリー食を続けると驚くべき効果が得られることがわかってきた。寿命が延び,健康な状態が維持されるのだ。カロリー制限は人間の老化も遅らせると期待されている。
 ただ,人間で最大限の効果を得るには,1日の摂取量を30%も落とさなければならない。これは2500キロカロリー(kcal)の摂取量から1750kcalに下げることに相当する。こうしたカロリー制限を場合によっては数年間続ける必要がある。こんな過酷な計画に耐えられる人はほとんどいないだろう。
 だが,もし空腹を感じさせることなく,カロリー制限による効果を再現する薬が開発されればどうだろう。「カロリー制限模倣薬」とでも呼ぶべき薬は,果たして健康な状態を長く保たせることができるだろうか。糖尿病や動脈硬化,心臓病,ガンといった加齢に伴うさまざまな病気の発症を最晩年まで遅らせることができるのだろうか。
 私たちの研究グループは,こんな疑問を1990年代中ごろに抱いた。きっかけは,ある種の化学物質がカロリー制限で得られる効果と似た作用をもたらすことがネズミの実験でわかったことだ。それ以来,他の多くの研究者も含めて,同様の効果を人間にもたらす安全な化合物の探索が続けられている。まだ成功したとは言えないが,失敗から多くの有益な情報が得られている。カロリー制限模倣薬が最終的に現実となる望みは大きくなりつつある。