特集:時間とは何か
生物学
生物がもつ4つの時計

K. ライト
200212

日経サイエンス 2002年12月号

9ページ
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昨年亡くなった生物心理学者のギボン(John Gibbon)は,時間を「原初から存在する前後関係」,つまり,あらゆる時代のすべての生物が感じてきた動かすことのできない事実とみなしていた。夜明けとともに花開くアサガオ,秋に南へと旅するカモ,17年に1度大発生する米国の周期ゼミ。下等生物の粘菌ですら,1日周期で胞子を飛ばす。タイミングがすべてなのだ。
 人間でも体内時計が秒や分,日,月,年などの時間をはかっている。テニスでサーブをするときの一瞬一瞬の動作をコントロールしているのは体に備わった時計だ。時差ボケや冬季うつ病は体内時計の“狂い”が原因だし,女性の性周期にかかわるホルモンの周期的な分泌上昇も体の時計がコントロールしている。人の寿命さえ,細胞にある非常に正確な時計が決めているのかもしれない。生命の時計は,死ぬまで時を刻み続ける。
 体の時計には,ストップウオッチと日時計くらいタイプの違うさまざまな種類がある。正確で狂いのないものや,正確さには欠けるが意識的にコントロールできるもの。地球の公転や自転に同期した時計もあれば,分子レベルの反応周期に合っているものもある。どれも脳や体が複雑な仕事をするうえで不可欠だ。時間をはかるメカニズムから老化や病気の本質がわかることもある。ガンやパーキンソン病,季節性うつ病,注意欠陥多動性障害(ADHD)などの疾患は,体内時計の不具合と関係がある。
 体内時計の生理機能はまだ完全にはわかっていない。だが,時間にかかわる体験のうち,誰もが知りたいと思うようないくつかの疑問は解明されつつある。なぜ今か今かとヤカンを見つめているとお湯はなかなか沸騰しないのか。なぜ楽しい時間はあっという間に過ぎるのか。なぜ夜更かしが続くと消化不良になるのか。なぜ人間はハムスターより長く生きるのか──。体の時計の研究によって,こうした難問の答えが見つかるのも,時間の問題だろう。(本文より)